逆Lアンテナの上に同心の複数個のループを置いて複数の周波数で共振するアンテナを考えます。([9] Chapter5)
本アンテナの動作原理を"Nakano coupling"(中野カップリング)と呼びます。
本ケースはデータ作成ライブラリを使用しています。
(1) 離散マルチループ型
図1はループ数N=3のときのアンテナ形状です。無限に広いグラウンド板を考えます。
本アンテナの入力インピーダンスは逆Lアンテナの形状によって大きく変わります。
逆Lアンテナの全長=LV(垂直部の長さ)+LH(水平部の長さ)
一番外側のループ長C1=1.19λ3
と一番内側のループ長CN=0.87λ3
およびループ面とグラウンド板の距離h=0.1λ3は共通です。
ここでλ3は3GHzにおける波長(=100mm)です。
図2は反射係数です。3個の周波数(2.54, 2.96, 3.61GHz)で共振しています。
図3は3個の共振周波数での電流分布です。赤い所に大きな電流が流れます。
順に外側、中央、内側のループのX方向を向いた辺に大きな電流が流れることがわかります。
図4は2番目の共振周波数での放射パターンです。ビームの中心は+Z方向になり利得は8.9dBiです。
図1 アンテナ形状 (N=3, LV+LH=0.051λ3+0.199λ3=0.250λ3)
図2 反射係数(2.2~3.8GHz, Z0=50Ω)
図3 電流分布
![]() (a) XZ面 |
![]() (b) YZ面 |
図4 放射パターン(2.96GHz) |
図5と図6はループの巻き数N=5とN=7のときの反射係数です。
それぞれ5個と7個の周波数で共振しています。
一番外側と一番内側のループ長が共通なので第1周波数と第N周波数は変わらず、
その間にN-2個の共振周波数が発生します。
図5 反射係数(N=5, 2.2~3.8GHz, Z0=50Ω)
図6 反射係数(N=7, 2.2~3.8GHz, Z0=50Ω)
◆入力データ(右クリック+[保存])
Multiloop_discrete_N3.omm,
Multiloop_discrete_N5.omm,
Multiloop_discrete_N7.omm
◆データ作成ライブラリ用ソースコード(右クリック+[保存])
Multiloop_discrete.c
(2) 修正マルチループ型
図7(a)のように四つ角を短絡したモデルを修正マルチループ型と呼びます。
参考までに(b)のような中心のループだけを取り出した単ループ型も考えます。
図8は反射係数です。
図2と比べると共振周波数が一つになり、修正マルチループ型の帯域幅は単ループ型に比べて広くなっています。
![]() (a) 修正マルチループ型 LV+LH=0.057λ3+0.200λ3=0.257λ3 |
![]() (b) 単ループ型 LV+LH=0.040λ3+0.210λ3=0.250λ3 |
図7 アンテナ形状 | |
![]() (a) 修正マルチループ型 |
![]() (b) 単ループ型 |
図8 反射係数(2.2~3.8GHz, Z0=50Ω) |
◆入力データ(右クリック+[保存])
Multiloop_modified_N3.omm,
Multiloop_single.omm
◆データ作成ライブラリ用ソースコード(右クリック+[保存])
Multiloop_modified.c
(3) 面状ループ型
図9のようにループ部を面状導体にしたモデルを面状ループ型と呼びます。
図10は反射係数です。図8(a)の修正マルチループ型と似た特性になります。
図9 アンテナ形状 (LV+LH=0.058λ3+0.192λ3=0.250λ3)
図10 反射係数(2.2~3.8GHz, Z0=50Ω)
◆入力データ(右クリック+[保存])
Multiloop_plate.omm
◆データ作成ライブラリ用ソースコード(右クリック+[保存])
Multiloop_plate.c
図11は離散マルチループ型(N=3)をOpenFDTDとOpenMOMで計算した結果です。両者はよく一致しています。
図11 反射係数のOpenFDTDとOpenMOMの比較(離散マルチループ型, N=3, 2.2~3.8GHz, Z0=50Ω)