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7.2 マルチループ付き逆Lアンテナ

逆Lアンテナの上に同心の複数個のループを置いて複数の周波数で共振するアンテナを考えます。([9] Chapter5)
本アンテナの動作原理を"Nakano coupling"(中野カップリング)と呼びます。
本ケースはデータ作成ライブラリを使用しています。

(1) 離散マルチループ型

図1はループ数N=3のときのアンテナ形状です。無限に広いグラウンド板を考えます。
本アンテナの入力インピーダンスは逆Lアンテナの形状によって大きく変わります。
逆Lアンテナの全長=LV(垂直部の長さ)+LH(水平部の長さ)
一番外側のループ長C1=1.19λ3 と一番内側のループ長CN=0.87λ3 およびループ面とグラウンド板の距離h=0.1λ3は共通です。
ここでλ3は3GHzにおける波長(=100mm)です。
図2は反射係数です。3個の周波数(2.54, 2.96, 3.61GHz)で共振しています。
図3は3個の共振周波数での電流分布です。赤い所に大きな電流が流れます。 順に外側、中央、内側のループのX方向を向いた辺に大きな電流が流れることがわかります。
図4は2番目の共振周波数での放射パターンです。ビームの中心は+Z方向になり利得は8.9dBiです。


図1 アンテナ形状 (N=3, LV+LH=0.051λ3+0.199λ3=0.250λ3)


図2 反射係数(2.2~3.8GHz, Z0=50Ω)


図3 電流分布


(a) XZ面

(b) YZ面
図4 放射パターン(2.96GHz)

図5と図6はループの巻き数N=5とN=7のときの反射係数です。
それぞれ5個と7個の周波数で共振しています。
一番外側と一番内側のループ長が共通なので第1周波数と第N周波数は変わらず、 その間にN-2個の共振周波数が発生します。


図5 反射係数(N=5, 2.2~3.8GHz, Z0=50Ω)


図6 反射係数(N=7, 2.2~3.8GHz, Z0=50Ω)

◆入力データ(右クリック+[保存])
Multiloop_discrete_N3.omm, Multiloop_discrete_N5.omm, Multiloop_discrete_N7.omm

◆データ作成ライブラリ用ソースコード(右クリック+[保存])
Multiloop_discrete.c

(2) 修正マルチループ型

図7(a)のように四つ角を短絡したモデルを修正マルチループ型と呼びます。
参考までに(b)のような中心のループだけを取り出した単ループ型も考えます。
図8は反射係数です。 図2と比べると共振周波数が一つになり、修正マルチループ型の帯域幅は単ループ型に比べて広くなっています。


(a) 修正マルチループ型
LV+LH=0.057λ3+0.200λ3=0.257λ3

(b) 単ループ型
LV+LH=0.040λ3+0.210λ3=0.250λ3
図7 アンテナ形状

(a) 修正マルチループ型

(b) 単ループ型
図8 反射係数(2.2~3.8GHz, Z0=50Ω)

◆入力データ(右クリック+[保存])
Multiloop_modified_N3.omm, Multiloop_single.omm

◆データ作成ライブラリ用ソースコード(右クリック+[保存])
Multiloop_modified.c

(3) 面状ループ型

図9のようにループ部を面状導体にしたモデルを面状ループ型と呼びます。
図10は反射係数です。図8(a)の修正マルチループ型と似た特性になります。


図9 アンテナ形状 (LV+LH=0.058λ3+0.192λ3=0.250λ3)


図10 反射係数(2.2~3.8GHz, Z0=50Ω)

◆入力データ(右クリック+[保存])
Multiloop_plate.omm

◆データ作成ライブラリ用ソースコード(右クリック+[保存])
Multiloop_plate.c


図11は離散マルチループ型(N=3)をOpenFDTDとOpenMOMで計算した結果です。両者はよく一致しています。


図11 反射係数のOpenFDTDとOpenMOMの比較(離散マルチループ型, N=3, 2.2~3.8GHz, Z0=50Ω)