目次

2. 数値ファントム

2.1 数値ファントム

人体の形状と組織名をデジタル化したものを数値ファントムと呼びます。
[4]のサイトからMATLABのソースコードとともに数値ファントムをダウンロードすることができます。
乳房を外径50mm(厚さ1mm)の半球状のセラミック容器に隙間なく置いた状態でMRIで測定し、 その画像の輝度から組織名を同定したものです。
データ領域の大きさは100mm×100mm×50mmです。 分解能は1mmです。従ってボクセルの体積は1mm3、 総ボクセル数は500000です。
3名のがん患者のデータから成ります。 ファイル名は順に、 mediumLabelList_Reso1mm_Case1.txt~mediumLabelList_Reso1mm_Case3.txt ですが、ここでは簡単にcase1~case3と呼びます。
数値ファントムのデータは組織番号である整数の並びです。 組織番号と組織名、および各ファイルのボクセル数は表2-1の通りです。

表2-1 組織番号、組織名、ボクセル数
組織番号組織名case1case2case3
0背景250151250151250151
1脂肪192970177097178534
2乳腺 24291 39234 41562
3容器 29113 29113 29113
4がん 3475 4405 640
5皮膚 0 0 0
合計500000500000500000

2.2 各組織の電気定数

乳房の各組織の電気定数については[1]に詳しく説明されていますが、 ここでは周波数は2GHz帯とし、 比誘電率εrと導電率σとして[1]の表2.6の値を使用します。 その値は表2-2の通りです。
表2-2から以下のことがわかります。

  1. 乳腺とがんは脂肪と比べて比誘電率、導電率ともに大幅に大きい。
  2. 組織によらず導電率(単位S/m)は比誘電率の約3%である。
  3. 乳腺とがんの電気定数は近い。これががんの検出を難しくします。

表2-2 乳房の各組織の電気定数
組織名比誘電率εr導電率σ[S/m]
脂肪6.50.2
乳腺401.0
がん541.3

なお、複素比誘電率と比誘電率、導電率の関係は以下の通りです。

(2-1)

参考までに、 [5][6]のサイトから脂肪(Fat-Breast/Fat)と乳腺(Mammary gland/Gland)の比誘電率と導電率の周波数特性を取得したものが図2-1です(がんはなし)。 図中に表2-2の値も記しています。
図2-1と表2-2には少し差がありますが、目的は乳腺とがんを区別することなので、 両者の電気定数に十分な差があれば問題ありません。

図2-1 脂肪と乳腺の比誘電率と導電率の周波数特性(1~5GHz, ●は表2-2)

ウィスコンシン大学が公開している数値ファントム[7][8]では、 脂肪と乳腺の間に中間領域(Transitional region)が設定されています。

図2-2に乳房の構造を示します。

図2-2 乳房の構造(https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/cancer/breast/knowledge.html)

2.3 数値ファントムの図形表示

図2-3にcase1の比誘電率の水平断面図を示します。 図中で黄色ががん、緑色が乳腺、青色が脂肪です。
図2-4にcase1の垂直断面図、図2-5,図2-6にcase2,case3の水平断面図を示します。
導電率についても同様の分布図になります。

図2-3 比誘電率の水平断面図(case1)

図2-4 比誘電率の垂直断面図(case1)

図2-5 比誘電率の水平断面図(case2)

図2-6 比誘電率の水平断面図(case3)